砦なき者
小説「砦なき者」
2002年
文庫: 362ページ
出版社: 講談社
解説:テレビを信じてはならない。
“4年後の『破線のマリス』”と呼ぶべき傑作サスペンス!
映像という手段を知り尽くし、若者のカリスマとなった邪悪な男。彼を生み出してしまったテレビ業界の男たちが挑んだ戦いとは――?
報道番組『ナイン・トゥ・テン』に売春の元締めとして登場した女子高生が全裸で首を吊った。恋人を番組に殺されたと訴える青年八尋樹一郎の姿は、ライバル局の視聴率を跳ね上げた。メディアが生んだ一人のカリスマ。その邪悪な正体に気づいたのは、砦を追われたテレビマン達だった。『破線のマリス』を超える衝撃。
視聴率というものが表現する大衆が、不気味でならない時がある。
「閉じた社会」には、行き場を失った暗いエネルギーが満ち満ちている。1千万人が1人のカリスマの登場によって「絶対的な総意」としてひとつにまとまったらと想像すると、背筋が凍る。
だが、本物の恐怖はその先にあるように思えてならない。――野沢尚
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小説・シナリオ「破線のマリス」
レビュー
ドラマ化された本作は「破線のマリス」の続編とされているが、ドラマ版「砦なき者」が本よりも前編よりも先だったため、本作のレビューを先に書こうと思う。
ドラマ版は妻夫木聡くんが出ていたので観たのだけど、結末が「あれ?!」という感じな以外は、キャスティングも良かったし、原作の雰囲気は出せていたように思う。
小説では「殺されたい女」「独占インタビュー」「降臨(+Fの戒律)」と大きく分けて3つのストーリーで構成されているが、ドラマ化されたのはツマブキくん扮する八尋樹一郎が出てくる3つ目の章「降臨」である。
このドラマが放送される前の番組宣伝にて、
「ツマブキくんの持つ明るさの中に潜む暗さが八尋にぴったり、彼しかいない」
というようなコメントをしている方がいて(うろ覚え)、もしかしてあれが野沢さんだったのだろうか。
もう少しまともに見ておけば良かったと後悔。
殺されたい女
社内恋愛の末、男に利用され捨てられた女が、元恋人を「妊娠した」と脅し、自ら殺されるよう仕向けた。
そして男への復讐(?)として、
「自分が彼に殺されたことを警察よりも先に、彼が欠かさず観ている『ナイン・トゥ・テン』に暴いてほしい」
と番組スタッフに電話をかけてくる。
というストーリー。
ものすごく労力をかけて彼に復讐するために、生きるよりも自ら死を選び賭けに出る女性の気持ちとは。
そしてそれを止め、しかし彼女が死んでしまったことが解りつつも彼女の手がかりを元に彼女の素性と元恋人を暴くスタッフ赤松の想い。
結局彼女と生きたまま逢うことが出来なかった赤松の心は、失恋に似たものだったのだろうか。
赤松は、懸命に生き、力尽きる前に最後の悪あがきをしようとした女に恋をしたのではないだろうか。
もし生きて逢えたなら、と。
独占インタビュー
少女が忽然と消えた。誘拐か殺人か、はたまた神隠しか。
少女の隣人、蓮見がマスコミや警察に吹聴し捜査を撹乱するのだが、その目的は?
秘められた愛から起こる一つの事件を赤松が追う、というストーリー。
野沢氏らしい切ない愛を意外な形で描いたものだと思う。
比較的短い章であっけなく幕を閉じるが、「赤ん坊」赤松が成長していく様がわかる。
降臨(+Fの戒律)
『ナイン・トゥ・テン』のメインキャスター長坂文雄が、彼の取材によって恋人を殺されたと他局に訴えた八尋樹一郎によって陥れられる。
現場スタッフの赤松が長坂の名誉を挽回するために、長坂とともに八尋の過去を調べる。
独自のカリスマ性で国民的アイドルのように有名になった八尋の清廉潔白なイメージに隠された黒い闇。
狙いは一体何か、過去に何が起きたのか、長坂はどうなってしまうのか。
3つのストーリーの中では一番サスペンス色が濃く、ハラハラもするし、読み応えがある。
「Fの戒律」では、赤坂と八尋の対決そして事件の収束となるわけだが、やはり多少「やっつけた」感が残る。
呆気なさというか。
しかし、八尋が滅びることが、事件の解決ではないということ。
膨れ上がった憎悪、しかも特定のものに向けられているわけではない集団の力というものがこの先どうなっていくのか・・・というままで終わるところが逆に目指したものなのかもしれない。
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