呼人
小説「呼人」
1999年
文庫: 485ページ
出版社: 講談社
解説:少年は12歳にして「永遠の命」に閉じ込められた!?僕はなぜ大人にならないのだろう。心も躰も成長を止め、純粋な子供のまま生きていくことは果たして幸せなのだろうか。出生の秘密を自ら探る呼人が辿り着いた驚くべき真実とは。感動のラスト、権力者の理想が引き起こす現代の恐怖をリアルに描いた傑作長編。
レビュー
私が野沢尚の作品でベスト5には入れたい小説。
複雑な事情から、母方の叔父と叔母に育てられた呼人。
親友にも恵まれ、ちょっぴり気になる女の子もいて、普通に小学生を楽しんでいたはずの少年が、12歳から成長が止まってしまった、というお話。
「ずっと子供のままでいたかった」
と過去を振り返って目を細める大人が周りにもいるけれど、ずっと子供でいなければならない呼人の苦悩は想像できるのだろうか。
もちろん彼は脳も子供のままなので、複雑に考え込んでしまったりはしなかったかもしれないけれど。
本当(戸籍上)はもう大人の年齢だから高校にも大学にも行かなくてはならないし、就職だってしなくてはならない。
呼人だってそうしたかった。
けれど、勉強も人一倍努力しなければならなかったし、子供の見かけでは社会はなかなか受け入れてはくれなかった。
当時の親友も成長し、それぞれの道を歩み、次第にバラバラになっていく。
世間では強がって生きるしかなかった彼らも、大人になって発生する問題に直面し挫折すると、呼人に会いにきた。
呼人には何でも話せる、呼人は心がきれいなままだから。
そんな呼人にも抱える問題はあった。
自分を置いていなくなった母親の身分。
その母親が握っている呼人の出生についての秘密。
許したいのに許せないことへの葛藤。
自分自身への不信感。存在意義。
未来への不安。
そして呼人は母親と対決しに渡米する。
呼人はみんなの友人であり、みんなの子供だったのじゃないか。
みんなの希望であり、みんなの宝物だったのじゃないか。
けれど、呼人には、やはり本当の母親との対決が必要だったのじゃないのか。
そうすることで、本当の意味で呼人は誰かを愛することができるのじゃないのか。
野沢作品は「愛」と「自分(人間)」というテーマが根底に強くあるのだが、「呼人」はそれを純粋に、けれど複雑に描いたものだと思う。
そして、読んだ後に、呼人を自分の子供のように愛している自分自身に気付いたのである。
そんな愛しい小説なのです。
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